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勅使川原三郎さん「鏡と音楽」公演レポート
<次に見る夢の中へ目覚めさせられるような美しさ>

9月27日、新国立劇場で、勅使川原三郎さんの「鏡と音楽」公演の最終日を観て来ました。コンテンポラリーダンスを言葉で表現するのは難しいのですが、非常に素晴らしかったので、個人的な感想を述べさせていただきたいと思います。

私は新国立劇場の会員誌にも原稿を書かせていただいてますが(その公演「ヘンリー6世」は10〜11月に公演予定)、新国は大・中・小と3つの劇場があって様々な舞台が組まれており、またお隣はオペラシティでしょっちゅうコンサートが行われているため、なかなか演目をフォローしきれず、あやうく三郎さんの新作を見逃すところでした。wakkiがマイレオニーブログでご案内くださって本当によかったです。

今年は、コンテンポラリーダンスの代名詞のようなドイツ人舞踊家、ピナ・バウシュが6月に急逝、続いて7月には、草分け的存在の一人であるマース・カニングハムがニューヨークで死去と、脱力感に打ちのめされるような夏でしたが、今日の舞台を拝見して、ああ、勅使川原さんがいらっしゃる! と嬉しい安堵感に包まれると同時に、その激しい創造性のほとばしりに身のすくむような、そして、ものすごい解放感に浸されました。

1995年に初演された「Here to Here」(昨年、日本でも再演)で、この魅力的で哲学的なタイトルも含めて、行くところまで行ってしまったのだなあ・・・、という感慨に耽ったものですけれども、今回、「鏡と音楽」を観て、自分の感慨がいかに甘っちょろいものだったかに気づきました。まだまだ行くのだ・・・というか、とどまらない、さらに無限に進んでいるじゃないか、と。


「鏡が音楽に映る」? 光と音楽と肉体が呼応し合う衝撃
(様々なシークエンスのランダムな覚え書き)



真っ暗な中、舞台前面に立つ二人に鋭い直線的な光が当たると、柱にも人形にも見える冒頭から、瞬間ごとに入れ替わる照明と暗転で、さっきはそこに2人、今はこっちに3人と、まるで同時にいくつもの場面が展開されているように見える転換の速さの妙。

洞窟の中の工事現場を思わせる轟音と光と暗闇が交錯。舞台奥からヘビのような動きで床を這い回ってくる人影は、身体の下に台車があるのでしょうが、今まで見たことのない独特の動きに思わずドキッ。

千変万化の光の乱反射が、轟音とあいまって光の攻撃と呼びたいほど。次の瞬間、古楽器アンサンブルのチェンバロや弦の響きが生々しいバロック音楽に変わった静謐な空間の中、ダンサーたちは縦横無尽に動き回りながら、常に両手を別方向に振り回し続けるという超絶技巧を駆使。万華鏡のような動きが細かく深く続く。リズムに合わせていないのに、2人が同時にピタッと静止して驚いてしまう。

いつの間にか屏風のような衝立が舞台に現れ、シルバーに照明されたた後、ゴールドに。その周囲を走り続けるダンサーとその前に静止し続ける2人のダンサー。ジャコメッティの彫刻に似た体躯のダンサーが長い手足を絡ませたり解いたり、映像的で詩的。

舞台に斜めに置かれたそれぞれの板の上に、並んで九の字に横たわるダンサーたち。鏡の裏側の世界なのか、光の屈折率なのか、照明の当たり具合で違って見える位相がおもしろい。終盤、立ったまま脚を左右に振り子のように動かす振付を、数人から1人去り、1人去りして長時間続行。最後は2人になり、ミニマルな動きを繰り返した後、同時にピタッと静止した妙味には、客席からもため息が。

勅使川原さんを含む8人のダンサーたちが手をつなぎ、肩を組み、何度も拍手で引っぱり出された時、暗闇の中に黒い衣裳で立つ彼らのストイックさが何と際立っていたことか。でも漂っていたのは柔らかい、とても柔らかい空気。


ダンス界の枠を越える革命児がイサムノグチ役に挑戦


一環して「光」をテーマにしてきた彼らしい、登場するのは光すなわち鏡、音楽、ダンサーたちである、抽象的でありながら原初的な力強さで訴えかけてくる清冽な舞台でした。次に見る夢の中へ目覚めさせられるような不思議な美しさの余韻。そんな言葉が胸に去来しました。研ぎ澄まされた興奮とたゆたうような浮遊感、光と闇、動と静、様々なコントラストが絶妙で、一瞬たりとも飽くことのない1時間半でした。

類稀なダンスで観客の心を鷲づかみするだけでなく、演出、振付、舞台美術、照明デザイン、衣裳、音楽構成まで手掛ける勅使川原三郎さんの偉才には、驚嘆せざるを得ません。パリオペラ座バレエ団、フランクフルトバレエ団、バイエルン国立歌劇場バレエ団などから、日本人振付家として初めて作品を委嘱されたのも彼の独創性ゆえでしょう。

その挑戦はとどまるところを知りません。ダンスの分野だけでなく、インスタレーションや映像作品の創作、立教大学教授、執筆などに加え、今年は我らが松井久子監督のもと、映画「レオニー」にイサム・ノグチ役で出演。北海道のモエレロケの現場では、実際にイサムと交流のあった方が「そっくり!」と息を飲んだとか。

ダンス界の既存の価値観や枠をスケールアウトして新しい表現を追求し続ける彼と、“宿命の越境者”として世界中を創造の場としたイサムには、芸術家として共通する部分が多いのではないでしょうか。スクリーンのイサム役を拝見するのを心待ちにすると同時に、スキンヘッドが清々しく少年のような三郎さんを、今後も応援していきたいと思います。
KARASの橋本さん、川村さん、どうもありがとうございました。

| shiori | 映画 『レオニー』 | comments(3) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
2009/10/03 1:13 AM posted by: shiori
tomokoさん情報にも助けられました。感謝!
2009/10/01 12:08 AM posted by: tomoko
shioriさんのレポートはすごい。。。

まるで実際のステージを体感したかのようです。

感動しました。

いつか本当の本当に、勅使川原さんの舞台を見たいです。
2009/09/30 9:57 AM posted by: wakki
私も観に行ったのですが、あの衝撃と感動を
言葉にするのは難しいですね。
イサム・ノグチの彫刻に手足があったら
こんなふうに踊るかな、と、
勝手にレオニーに結びつけながら観ていました(笑)
前回の舞台も衝撃的だったのですが
今回の舞台はshioriさんの言う
“解放感”と“柔らかさ”がありましたね。
観終わった後の印象だいぶ異なる気がしました。
レポートを読んであらためてそれを実感できました。ありがとうございました!

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